広告業界を取り巻く状況は、大きく変わりつつある。SNSや動画サイト上の広告など、商品の購入に至るまでの顧客の導線が複雑化しているのだ。加えて近年では、インターネット業界においてプライバシー保護の風潮が強まってきた。そのため、ユーザーの個人情報に基づいたターゲティング広告も影響を受けつつある。今後もプライバシー規制は強化されると予測されており、従来型のプロモーション戦略は転換点を迎えている。
このような状況の中で、Web3技術を駆使して新たなビジネスモデルを模索する企業が存在する。Web3サービスを開発する博報堂の子会社「株式会社博報堂キースリー(東京都港区)」だ。この博報堂キースリーで注目すべきは、ハッカソン(※1)を積極的に企画・開催している点。実際に2023年2月には、トヨタ自動車協賛のもとに大規模なWeb3ハッカソンのイベントが開催された。
※1 ハッカソン・・・IT業界における競技会を指す。特定のテーマを元に、プログラマーが新システムのアイデアや開発技術を競うイベント。
しかし、広告会社である博報堂とIT分野のハッカソンは一見無関係に思える。一体なぜ、博報堂キースリーはWeb3のハッカソンに乗り出したのか。このハッカソンを通じて、博報堂キースリーはどのような将来像を実現しようというのか。
今回は、同社の代表取締役社長 重松 俊範氏へ以下の項目について聞いた。
ブロックチェーンを駆使したプロモーションについて模索する読者にとって、大手広告会社が進めるWeb3戦略は大きなヒントとなるであろう。
株式会社博報堂キースリー 代表取締役社長 重松 俊範氏
ーまず、博報堂キースリーの事業内容について、お聞かせください。
重松氏:博報堂キースリーは、Web3領域に特化した広告会社です。
博報堂では、CMやイベント開催、ノベルティ配布など、顧客の商品拡販のために幅広いプロモーション戦略を展開しています。また、近年では企業とともに新規事業への挑戦もしてます。このようなプロモーションや事業開発など広告会社が従来行ってきたビジネスをWeb3領域でも提供するために、2022年12月5日に博報堂キースリーが設立されました。
クライアント企業と共にWeb3を社会実装するため、博報堂キースリーでは以下のサービスを展開しています。
このようにさまざまなサービスを提供しているため、クライアントのWeb3参入にあたって包括的な支援が可能です。
ーなぜ、広告会社である博報堂がWeb3事業に乗り出したのでしょうか。
重松氏:かねてより博報堂は、先端技術の活用による新たなプロモーション手法を模索していたからです。加えて、将来に向けた新規事業の創出にも積極的に取り組んでいます。このような施策のひとつとして、Web3分野に挑戦しているのです。
ブロックチェーンの台頭によって、Web3時代の新たなビジネスが誕生するかもしれません。このような市場環境の変革に対応するため、博報堂では子会社を立ち上げてWeb3時代に適した新規事業を探求しています。
編集部注釈
博報堂のWeb3に向けた取り組みについて、以下のインタビュー記事もご覧ください。
ー博報堂キースリー独自の強みとは何ですか。
重松氏:博報堂が培ってきた大企業との豊富な取引経験を活用できる点です。
世の中には、優秀なWeb3スタートアップが数多く存在します。しかし、それらの多くは単一のプロダクトを軸にサービス展開をしているため、包括的なWeb3支援が困難です。その一方で博報堂キースリーは、親会社である博報堂の膨大な知見を元に、ユーザー体験の設計からシステム開発までを包括的なプロジェクトとして請け負える体制が整っています。また大企業との取引実績が豊富な点も強みです。
加えて、パブリックチェーンである「Astar Network」と提携している点もアピールポイントです。Web3業界の中心で活躍する渡辺創太氏(Astar Networkのファンダー)と共同でプロジェクトを進められるため、最新の市場動向を反映した事業運営ができます。
ー博報堂キースリーとして、どのような課題を解決したいですか。
重松氏:Web3技術を駆使して、プロモーションや事業開発におけるクライアントの課題を解決したいと考えています。
個人情報を企業側が持つ状態から個人が個人のデータを管理する時代になっていく社会を後押ししたいと考えております。当然広告配信の手法も変わっていき、企業や広告会社が個人情報を扱わずに広告配信が出来るようなことが考えられるでしょう。技術としては分散型IDとゼロ知識証明(※2)、ブロックチェーンをかけ合わせることで実現できると思います。
※2 ゼロ知識証明・・・自身が持つデータを開示せずに、相手にデータ所有の事実のみを伝える暗号技術。
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