広告会社の博報堂が事業開発をする理由とは? 「ミライの事業室」が見出したWEB3の可能性

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博報堂といえばクライアント企業のために広告を制作する会社というイメージが強いが、ここに来て異なる動きも見せている。AIやIoT、ブロックチェーン、WEB3など新たな環境の登場をきっかけに、長年にわたって顧客向けにクリエイティビティを発揮してきた実績を、自らの事業開発に活かす取り組みが行われている。2019年には新規事業開発に特化した専門組織「ミライの事業室」が設立された。

さらに、ミライの事業室が中心となり、クライアント企業と博報堂の新規事業共創プログラム「Hakuhodo JV Studio」を開始した。クライアント企業と博報堂グループが共同出資し、ノウハウを持ち寄って事業を共創するジョイントベンチャー(JV)を設立して、ヒト・モノ・カネを供給し、中長期的なパートナーシップの下で事業を推進するという。

今回、ミライの事業室のチーフプロデューサーとして、さまざまな事業開発に携わっている佐野拓海氏に、WEB3プロジェクトから見えてきたWEB3の可能性について詳しく話を聞いた。

佐野様の役割について

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株式会社博報堂 ミライの事業室 みんなの事業チーム チーフプロデューサー 佐野 拓海氏

博報堂でチーフプロデューサーとして、企業との共同事業をプロデュースしています。もともと社内ベンチャーだったSEEDATA(現SEEDER)に所属しており、2021年にSEEDATAからミライの事業室にジョインしました。私自身は広告だけではなく、新商品開発や新ブランド開発といった取り組みを手掛けてきました。博報堂が強みとする生活者発想で顧客課題や社会課題を解決するアイデアを実装することと、企業としての新たな収益源を獲得することを目指しています。

WEB3については、これまではテクノロジーの話というイメージが強くあり、生活者発想とは距離がありました。今回、カルビーのWEB3プロジェクトとして「Astar Farm」上でNFTを提供する取り組みを行う中で、ブロックチェーンなどの技術中心ではなく、あくまでも生活者発想を起点にWEB3に取り組むことで、新たな可能性が生まれると感じています。

私自身はこれまでプロデューサーとして様々な商品開発に携わってきており、テクノロジー自体に強い興味があったわけではありません。生活のそばにあるリアルな商品とゲームがNFTを通じてつながるところに面白さを感じています。

カルビーの新たな取り組みから、WEB3は顧客との関係性を変化させる可能性を持つことが分かります。従来おやつを買ってもらうだけだった顧客も、NFTを持ってもらえばファンとして継続的につながり、マーケティング活動が実施できるわけです。

―WEB3によるビジネスを検討している中で感じていることは

WEB3をテクノロジーの視点からではなく、生活者の視点から考えることの大切さです。

今回話題にするWEB3についても、兆しとなる生活者の変化があります。例えば、従来はプラットフォーマーなどの企業側が提供するサービスを多くの人が利用してきましたが、最近は大手ではないブラウザを利用する人が増えていたりという変化が起きています。

これらのことから、プラットフォーマーが独占してきたデータや収益を分散するというWEB3の思想は事業者だけではなく、生活者も共感し始めているということがわかります。

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―日本発のパブリックブロックチェーン「Astar Network」の開発を主導するStake Technologiesと共にWEB3の新会社を設立し、クライアントに対してWeb3市場への参入を支援する取り組みを開始すると2022年9月27日に発表した。そのきっかけや背景ついて。

Astar Networkは「異なるブロックチェーン同士をつなぐことで、よりなめらかな世界を実現するプラットフォーム」をコンセプトとしており、WEB3のビジョン「Japan as No.1 Again」を公表しています。博報堂として日本企業によるWEB3への取り組みを推進したいという意図から、Astar Networkとの協業を決定しました。

日本におけるWEB3の成功は、大手企業を巻き込めるかどうかが鍵になるのが実態です。今後WEB3を手掛けるスタートアップは、企業を解散してDAO(分散型自律組織)のような組織に移行しようとするケースが増えると見込まれています。Stake Technologiesも将来的にはDAOになると公表しています。しかし、日本においては大手企業が組織と取引する際には、相手が信頼できる法人でなくてはならないケースが多いのが実情です。

そこで、約3000社のクライアントネットワークを持つ博報堂がWEB3における窓口としての役割を担い、企業と企業をつなぐことで、より多くのWEB3プロジェクトを生み出し、成功につなげられると考えています。取り組みのきっかけの1つは、カルビーとCryptoGamesをつなげたWEB3ゲーム企画です。

2022年7月にカルビーは、CryptoGamesが提供する農業体験ゲーム「Astar Farm」上で、NFT(非代替性トークン)を1万人に無料で配布するキャンペーンを実施すると発表した。カルビーは、バーチャル空間での体験価値の需要が高まってきたため、バーチャルとリアルを融合させた価値創造による新たなファンコミュニケーションを実現したいと説明している。(2022年7月21日のカルビーのプレスリリースから)

カルビーは日本人であればおやつの会社として誰もが知っている身近な企業ですが、WEB3への参入と聞くとイメージ的なギャップがあるかもしれません。それは現状のWEB3が実際の生活からはかけ離れているからです。だからこそ、おやつの会社として生活に身近なカルビーの取り組みをWEB3と掛け算すると面白い化学反応があると考えました。

カルビーが販売するポテトチップスなどのおやつは、じゃがいもの契約農家と連携し、きめ細かいプロセスを経て製造しています。WEB3のゲームを通じて、消費者に畑をもっと身近に感じてもらいたいという思いがあります。そこで農業体験ゲームのAstar Farmを活用して、ユーザーを巻き込んだ新たな取り組みをしていきたいと考えました。

カルビーだけでなく、こうしたWEB3プロジェクトの引き合いは多くなってきており、トップ企業ほど強く意識している印象です。今後、大手企業によるWEB3プロジェクトも増えてくるのではないでしょうか。

その際、プロジェクトを成功させるためには何よりも企画が重要だと考えています。WEB3プロジェクトの実現にはブロックチェーン技術を扱うため、開発者も重要ではありますが、まだ世の中はWEB3プロジェクトに触れたことがない方々が大半です。そのため、実際の技術的な要素よりも、初めての方でも参加してみたい、使ってみたいと感じていただける企画が重要となります。

博報堂グループとしては、既存のお客様をはじめ、WEB3プロジェクトに取り組みたいと考えておられる企業様と共に、様々な企画に取り組んでいきたいと考えています。

 

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