現実世界を再現した仮想空間であるメタバースを実際に事業のフィールドとするとき、運営者が直面するのが、「既存のリアル要素との関係」という問題だ。
「代用」「競合」「置き換え」「棲み分け」など多様なあり方が考えられる中、メタバースを「リアルと連動し、リアルを拡張・発展させる存在」と位置づけ、関連する技術を一体で展開するのが、大日本印刷株式会社(DNP)だ。リアル・バーチャル双方の領域で長年、さまざまな情報伝達の手段を提供してきたDNPが考えるメタバース普及の戦略を、同社で新規事業開拓を担う宮川尚氏(ABセンター XRコミュニケーション事業開発ユニット ビジネス推進部 部長)に聞いた。
ABセンター XRコミュニケーション事業開発ユニット ビジネス推進部 部長 宮川尚氏
-まず、宮川さんが現在ご担当の業務について簡単にご紹介ください。
中長期的な観点から、DNPの新規事業を開拓するAB(アドバンスドビジネス)センターに所属している私は、メタバースを含むXR(クロスリアリティ=現実空間と仮想空間の融合)関連の事業推進を統括しています。
こうした分野に関して、当社では従来、
・文化財/アートや漫画/アニメなどをデジタルコンテンツに変換する「デジタルアーカイブ」
・リアルの場のセンシングで得たデータをその場の情報表示に反映するなどの「リアル空間DX」
・仮想と現実の世界でいずれも欠かせない、本人確認や決済を担う「認証・セキュリティ」
という大きく3つの事業を、それぞれ別の部署で進めてきました。
リアルでのイベント開催や営業活動が難しくなったコロナ禍を契機に、こうした仮想空間と関わる要素技術をまとめて「XRコミュニケーション」と名付け、部署横断型のプロジェクトとして提案活動を進めています。
実在するモノや場所を高精度なデジタルデータに変換するための技術に加え、私たちはそれらを使って実際に作成した、イメージや3Dデータのアーカイブも持つ強みがあります。そこで、今後メタバースが普及していく過程では、貸し出し画像やシミュレーションソフトとして従来単体で提供していた内容と、人々が行き来する仮想空間をシームレスに融合でき、コンテンツとしての価値を高められるのではないかという期待も持っています。
-リアルとバーチャルにまたがる領域で既に多くの蓄積をお持ちとのことですが、国内のメタバースの現況をどうご覧になっていますか。
仮想空間がメタバースという言葉で注目されだして、まだ1年ほどという現時点では、「黙って流行を見てないで、とりあえず自社でも何かつくってみよう」という動きが多いように思います。まずホームページを立ち上げ、コンテンツは会社案内パンフレットの内容をそのまま載せていたインターネットの黎明期と、ちょうど近い感覚かもしれません。
ただ一方では、「自社顧客とのエンゲージメント強化にメタバースを活用したい」など、かなり具体的な課題をいただいて検討を進めるケースも出てきています。
DNPはメタバース構築支援サービスを、「リアルとバーチャルが並列し、連動する場所」という意味を込めた「PARALLEL SITE」という名称で展開しており、直近では、自治体が管理するリアルな公共空間をバーチャルで再現し、民間事業者がその中でイベントを開くといった「共創型」のプロジェクトを手がけています。
リアルの場所に比べ、それを再現したバーチャル空間には「物理的・法的な制約が少ない」というメリットがあります。そこで私たちも「同一場所を同一日時に複数再現し、それぞれ別の団体が貸し切りにできる」「屋外広告や騒音の規制を心配せず、色、光、音を気兼ねなく使える」といったメタバースの特長が生かせる企画を、立案段階からご支援することが多いです。
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