「アートの世界でブロックチェーンを活用」と聞いて、いま多くの人が思い浮かべるのは、アーティストの音楽・写真・動画などを正規に入手したことをNFT(非代替性トークン)で証明し、仮想通貨で売買する仕組みだろう。本来無限に複製できるデータに“一点もの”の希少価値を与えたり、真剣に応援するファンの証になったりと、技術導入が現在進行形のアーティスト活動に連動しているだけに、耳目を引きやすいのは確かだ。
もっとも、ブロックチェーンをアートに応用する試みは、それだけにとどまらない。今回は、著名な作品の二次利用や二次創作の分野で新たな取り組みにチャレンジし、事業化の準備を進めている大日本印刷株式会社(DNP)の担当者にその狙いと展望を聞いた。
DNP マーケティング本部 アーカイブ事業推進ユニット 事業開発第2部 末吉覚氏(写真左)、
DNP マーケティング本部 アーカイブ事業推進ユニット 事業開発第2部 第1グループ リーダー 安田芽里氏(写真右)
-まず、本日お集まりいただいたお二方から自己紹介をお願いします。
安田芽里氏(DNP マーケティング本部 アーカイブ事業推進ユニット 事業開発第2部 第1グループ リーダー):私は、DNPグループが20年以上前から手がける、国内外の美術館・博物館と契約しアート画像の貸出を行うサービス「イメージアーカイブ*」を発展させた実証実験体として新規事業開発プロジェクトを立ち上げ、そのリーダーを務めています。
ブロックチェーン技術の活用は3年前から検討を始め、2021年11月から今年8月にかけては、提供する画像を素材に二次創作を個人に許諾する用途での実証実験を、合計2回実施しました。
末吉覚氏(DNP マーケティング本部 アーカイブ事業推進ユニット 事業開発第2部 部長):私も、アート領域の新規事業開発を担当しており、今回の取り組みについては全体統括の立場になります。
DNPグループが行うアート等の画像貸出事業は、対法人で長い実績がある一方、画像を使用した販売商品として作られるプロダクトに対しては通常、監修やチェックの作業等が伴うことから、これまで個人に向けた貸出事例は、ほとんど例がありませんでした。
そこで今回、個人が一定の条件で販売商品における画像利用(以下「二次創作」)の許諾を得て、それを手軽に証明できるよう、確実な取引記録が残るブロックチェーンを用いた仕組みの実用化に取り組んでいます。
-ブロックチェーンを応用したアート画像ライセンス販売の実証実験について、もう少し詳しくお聞かせください。
安田氏:オンラインのハンドメイドマーケットプレイスを通じ、本格的な創作活動に取り組む個人を主としたクリエイターの方々を対象に、まずブロックチェーンを使わないテスト販売でニーズを探った後、実験の第二弾で「イメージアーカイブ・ラボ(Image Archives Lab)*」というサイトを設け、ブロックチェーンによるデジタル証明書を付けたアート画像のライセンス販売を行いました。
このデジタル証明書は「利用許諾の対価を支払った」という領収書に近い性質のもので、アートそのものの所有権を証明できるNFTと異なり、財産的な価値は伴いません。
今回二次創作の許諾対象としたのは、フランス国立美術館連合が管理している、絵画・彫刻8点の公式画像です。レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」をはじめ、ゴッホ、モネなどの著名な作品を選びました。
末吉氏:私たちが目指すのは、アートがもっと個人に身近になり、適切なライセンス処理を経た「n次創作物」が気軽に販売できるホワイトマーケット(公認、または許可を得て、あるいは意図された範囲で取引が行われる、合法的な市場のこと)を育てることです。
アートをモチーフに二次創作をしたいとき、共通の規約の範囲内であれば、個別にチェックを受けなくてもライセンスをすぐ購入でき、堂々と作品を販売できる。そんな仕組みを実現する手段として、ブロックチェーンという技術を採用しました。
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