私たちの「データ」は、どこに保管され、誰に管理されているのだろうか?また、世の中に溢れているさまざまな「データ」は、本当に正しくて安全なものなのだろうか?
いま、私たちのデータの多くはビッグテックを始めとしたサービス提供者である企業側に中央集権的に管理されている。そして、私たちのデータがそれらの企業の利益の根源になっているが、私たちに還元されることはほとんどない。私たちには、データの主権がないからだ。サービスがなくなってしまったら大切なデータや私たちのアイデンティも消えてしまう。
「ビッグデータ」という言葉も流行って久しい。ただ、そのデータの中には手作業で集計された誤りのあるものやデータ改ざんのリスクがあるものが含まれる可能性もある。そんな信頼性の低い「ビッグデータ」がはじき出した結果に、私たちの行く末を委ねて良いのだろうか?
こうしたデータ管理やデータ活用の課題を解決するのがWeb3だ。分散管理されたトラストレスな情報なら、誰もが安心できる未来と新しい価値を創造できる。そんなWeb3の実現に挑戦するスタートアップ企業がシンガポールに本社を置くDataGateway Pte. Ltd.だ。DataGatewayが目指す理想は、「情報は自己がコントロールする=Data Self Sovereignty」。
データサイエンスのエキスパート企業である同社は、AI、ブロックチェーン、分散型ストレージ、分散型IDなどを駆使して、個人や法人を確実に証明しつつ秘匿性を保てるデータウォレットを開発した。同社のデータウォレットによって、Web3の未来は大きく変わっていくかもしれない。
DataGatewayがデータ活用で生み出す価値とは?データウォレットの重要性とは?
DataGateway Pte. Ltd.のCEO 向縄 嘉律哉(さぎなわ かづや)氏に、取り組みの背景やその事例について聞いた。
DataGateway Pte. Ltd. CEO 向縄 嘉律哉 氏
ーDataGateway創業の経緯について教えてください
DataGatewayの創業をする前に、私は2017年にbitgritという会社を創業しています。bitgritは、データサイエンス×Web3に取り組んでおり、AIマーケットプレイス構想の実現を目指すスタートアップ企業です。現在は、HUB71というUAE(アラブ首長国連邦)のスタートアップ支援を利用してアブダビに拠点を置いており、MENA地域とインドを中心に2万人以上のデータサイエンティストのコミュニティを構築しています。bitgritでは、企業のデータをお預かりしてコンペティション形式で世界各国のデータサイエンティストに成果を競ってもらい、優れたアルゴリズムを企業に納めるというビジネスを行っています。
最近のコンペの事例ですと、ジェネラティブAIが生成した顔なのか、実際の人間の写真なのか判別するというものなどがわかりやすいかもしれません。このような事業を行っている中で感じた課題が、AIにとっては非常に重要なデータとなります。
なぜなら、良い(信用可能かつ、一定以上の分量がある)データがない限り、良いアルゴリズムができないからです。
しかし、良いデータを集めることは非常に課題が多いです。
どんなに優れたデータサイエンティストがアルゴリズムを作ったとしても、元となるデータに問題があったら使い物にならない結果になってしまいます。また、最近では多くの企業や個人が保有するデータを、横断的に分析するニーズも高まっていますが、データ改ざんや機密漏えい、権利侵害などのリスクと隣り合わせです。ChatGPTなど気軽に使える素晴らしいAI関連システムができてきていますが、学習に使われた元データが不明瞭だと後々権利的な問題が発生することは確実だと考えています。
データの主権を守りつつ、正しいデータによってより良い分析結果を導き出すためには、データの秘匿性を担保でき、耐改ざん性とデータの消失耐性が高いWeb3の分散型のテクノロジーが必要です。そこで、Web3による社会課題の解決を目的としたDataGatewayを2019年2月に創業することにしました。
ーDataGatewayの事業内容について教えてください
DataGatewayでは、データウォレットを通じ、「情報は自己がコントロールする=Data Self Sovereignty」の実現を目指しています。もっとも大きな目的としては、データの自己主権を個人に返すということです。
データウォレットとは、デジタル上で個人のアイデンティティと個人に関わるデータを保有できる仕組みです。最近では、ソウルバンドトークン(SBT)が個人のアイデンティティやデータ履歴を持てるものとして注目が集まっていますが、SBTはあくまでもトークンであるため、異なるブロックチェーン間での相互運用や、SBTが保存されているウォレットと個人のアイデンティティの間での証明には課題があります。
一方、データウォレットはひとりが1ウォレットだけを持つことを基本として考えています。将来的には本人であることをKYCしたり、生体認証でログインするなど確実に認証した人物が操作する前提で開発を進めています。そのため、ある意味ではソウルバンドウォレットと表現してもいいかもしれません。使用している技術としては分散型ID(DID)と検証可能な資格情報(VC)、ゼロ知識証明等を使って、秘匿性を保ちながら確実に個人を証明(匿名KYC)することもできます。
DataGatewayでは、こうした技術を使って『woollet』という独自ウォレットを開発しています。DataGatewayのプラットフォームを使えば、データの自己主権を個人に返すことができ、自分の行動から生まれたデータを自分自身で管理することができるようになります。また、自分の意思によってデータを選択的に提供することで、社会に貢献したりインセンティブを獲得したりできるようにもなります。
ーDataGatewayをシンガポールに設立した理由をお聞かせください
シンガポールは、世界の金融センターであるため、世界的な信用を必要とするビジネスを行っていく上で最適な拠点と考えました。また、創業検討時シンガポールはクリプトに関する税制面でも有利であったためです。
2021年当時はカリフォルニア大学バークレー校(UC バークレー)で、ブロックチェーンアクセラレータープログラムに参加していました。その時に、シンガポールなら優れたスタートアップや人材が集まっているので、Web3事業を展開しやすい環境であることを知ったというのも大きいです。
ー向縄様のご経歴を教えてください
私は中学を卒業して、茨城工業高等専門学校に進学しました。高専の先生には、もともと民間企業で働いていた方が多かったです。そのため、ビジネスの話をたくさん聞かせてもらえ、とても面白かったことを覚えています。
その中でも特に興味を持ったものが、知的財産に関することでした。ゼロから世の中にない新しいものを作るってすごいことだなと思い、芸術家やエンジニアのような人たちをとても尊敬し、その方達をサポートする仕事に興味を持ちました。、特許を多く持っているキャノンで知的財産に関する仕事をさせていただきました。
知的財産に関する仕事をする中で感じたことは、企業には多くの人が発明に携わっているのですが、個人の貢献を評価、反映することが難しいということでした。報奨金やインセンティブなどの制度はあっても、その人の働きに十分報いれているとは言えないのではと感じていました。企業の研究・開発には多くの人が携わるため、誰に報いるべきかを明確にするのも難しいということも現場で体感していました。
そのような中でもっと個人の権利をエンパワーメントしていきたいと思ってた時に、中国出張の際にブロックチェーンのことを知りました。特にスマートコントラクトが面白いと感じたんです。契約の自動執行という発想がものすごいインパクトで、「約束を守らないと結果が得られない」という仕組みが、私にはとても新鮮に感じられました。
Web3の考え方なら、頑張った人が報われるような世の中にしていけると思いました。そこで、新しい技術や特許を融合させてエンジニア個人の権利を自動化していくという発想で最初のbitgritを創業しました。
ーデータウォレットの重要性について教えてください
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