レイヤー2「INTMAX」とは?真の金融インフラを開発する日置玲於奈氏の展望に迫る

スマートコントラクトを実装したブロックチェーンの中で最大の時価総額を誇るのが、イーサリアムである。NFTやDeFi領域における代表的なネットワークであり、多くのトランザクションが発生している。しかし利用者数、利用量の増大に伴い、ガス代(手数料)の高騰やデータ処理の遅さが顕在化してきた。このような理由から、イーサリアムは日常生活レベルにまでは浸透していない。イーサリアムを実社会で活用するには、スケーラビリティ(拡張性)の課題解決が不可欠である。

このスケーラビリティを向上させるための有力な手法が、「レイヤー2(※)」の導入である。レイヤー2でトランザクションの一部を処理できれば、低コストで高速のデータ処理が実現するのだ。現在、世界各国のさまざまな組織がレイヤー2の開発に乗り出しており、競争は激化している。

※ レイヤー2・・・基盤となるブロックチェーン(レイヤー1)から派生させた別のネットワーク。レイヤー2で複数のトランザクションをまとめて処理してレイヤー1へ記録するため、データ処理能力の向上が期待できる。

こうした中、イーサリアムにおけるレイヤー2の開発に乗り出した二人の日本人がいる。日置玲於奈(ひおき れおな)氏と藤本真衣(ふじもと まい)氏だ。(藤本様のインタビュー記事リンク)
二人はスイスで「INTMAX(イントマックス)」というプロジェクトを立ち上げ、イーサリアム上のレイヤー2ネットワークの開発・普及に尽力している。このINTMAXの可能性には、多くの関係者が注目している。その活動はイーサリアム財団からも構想を認められており、活動資金が交付されている。さらには「CV VC Top 50 Report」という報告書において、スイスのWeb3企業1135社の中で上位50社に選出された。このようにIntmaxが取り組んでいるレイヤー2の開発は、ブロックチェーン業界から大きな注目を集めている。

このINTMAXでCo-Founderとして設計・開発を統括するのが、日置玲於奈氏である。日置玲於奈氏は学生時代からプログラミングに傾倒しており、セキュリティやプライバシーにも関心を向けてきた人物で、長年ブロックチェーン業界に携わってきた経歴を持つ。しかし一体、どのような経緯で日置玲於奈氏はINTMAXへ専念することになったのか。

今回は、同社のCo-Founder 日置玲於奈氏へINTMAX設立の経緯を中心として、以下の項目について聞いた。

  • レイヤー2ネットワークが秘める可能性
  • ブロックチェーンにおけるプライバシーの重要性
  • 日本企業に対するWeb3挑戦への提言

日置玲於奈氏の取り組みや今後の展望から、レイヤー2の動向を理解する上での重要なヒントを得られるであろう。

世界中のあらゆる人々が平等に利用できるブロックチェーンを

INTMAX Co-Founder 日置 玲於奈氏

ーまず、レイヤー2ブロックチェーン「INTMAX(イントマックス)」の概要をお聞かせください。

日置氏:INTMAXは、イーサリアムにおけるレイヤー2ブロックチェーンです。イーサリアムが誇るセキュリティや分散性は維持しつつ、さらに多くの人が利用できるようにネットワークの拡張を目指しています。

イーサリアムにおける処理能力の上限は、10万人/日ほどしかありません。よって、金融インフラとして世界中の人々へサービスを届けるには不十分です。そこで登場した手段が、「レイヤー2」です。レイヤー2を活用すれば、イーサリアムの利点を残したままデータ処理能力の向上を実現できます。

INTMAXではゼロ知識証明(※2)の技術を応用して、セキュリティとスケーラビリティを両立させたレイヤー2ネットワークを実現しました。

※2 ゼロ知識証明・・・秘密鍵の情報を公開せずに、第三者に対して秘密鍵を保有している事実について証明する技術。

学生時代から抱いていたセキュリティへの興味

ーINTMAXにおける日置様の役割について、教えてください。

日置氏:私はCo-Founderとしてプロジェクトの舵取りをしつつ、INTMAXを技術面から支えています。

このINTMAXの技術的な原案は、私が考案しました。もともと技術分野を得意としているため、主に設計や開発などのエンジニア領域に注力しています。日々の業務ではプログラマーとの連携を取りながら、設計から実装への橋渡し役を担っています。

ーこれまでの日置様のご経歴について、お聞かせください。

日置氏:私がセキュリティに関心を持つようになったきっかけは、学生時代に参加した「セキュリティ・キャンプ(※3)」です。このキャンプへの参加をきっかけとして、ウェブサイトの収益化やブロックチェーンに興味を抱きました。

イーサリアムブロックチェーンに触れる中で、セキュリティとスケーラビリテ(拡張性)の両立が困難であると実感したのです。これを契機に、イーサリアムにおけるスケーラビリティ向上に取り組み始めました。2018年にはレイヤー2プロジェクト「Plasma(プラズマ)」の研究グループに誘われて、リサーチ業務にも携わりました。

この他にも、インターナショナルスクールでのシステム開発の経歴もあります。このインターナショナルスクールでの経験は、現在の英語を駆使したプログラミング業務の礎になっています。その後、日本でNFTサービスの会社「Toy Cash」を設立しました。

このようにセキュリティやブロックチェーンに関する経験が、現在のINTMAXプロジェクトに繋がっています。

※3 セキュリティ・キャンプ・・・学生を対象としたサイバーセキュリティ人材を育成するためのプログラム。

ーINTMAXプロジェクトへ取り組んだきっかけについて、教えてください。

日置氏:イーサリアムコミュニティの会合後に、INTMAXの構想を閃いたことがきっかけです。

2021年9月に、私はイーサリアムの会合「Mainnet 2021」に参加していました。このイベントでレイヤー2の開発者たちと交流を深めた後、効率的にスケーラビリティを向上させる方法について思案していました。そして移動中のロサンゼルス空港で、INTMAXの原案を閃いたのです。

このINTMAXの構想が実現すれば、決済の世界にも大きな変革がもたらされると確信しました。この出来事をきっかけとして、INTMAXプロジェクトに乗り出しました。現在ではスイスに拠点を置き、レイヤー2ネットワークの開発を進めています。

ーINTMAXの活動拠点として、スイスを選んだ理由を教えてください。

日置氏:スイスを選んだ最大の理由は、法改正の動きが鈍いためです。

スイスは民主的な合意形成を重視するため、法律の急激な転換が起こりにくい国です。加えて、トップダウンによる政策転換も少ない傾向にあります。このことから、「急転直下の法改正によってブロックチェーンが規制される可能性は低い」と判断しました。

スイスのチューリッヒには、有力なクリプトコミュニティーが数多く集まっています。ブロックチェーンのプロトコルに革新をもたらそうと取り組む組織が多く、レベルの高さが特徴です。このような尊敬すべきプロジェクトが身近にある点も、スイスを選んだ理由のひとつです。

テストネットの公開で、開発は次なるフェーズへ

ーINTMAXの立ち上げから現在までの取り組みについて、教えてください。

 

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