ステーブルコイン「JPYC」が狙う 現金とブロックチェーンの“いいとこ取り”

2兆円相当を超える資産を預かっていた暗号資産取引所FTXの破綻が世界的なニュースとなる一方、現金に続く「デジタル円」の発行を視野に日本銀行が金融機関との実証実験を近く始めるなど、ブロックチェーン技術の普及を受けた「お金」のあり方は今、激変の時代を迎えている。そうした中で金融技術としてのブロックチェーンが秘めた可能性を、まず既存の手堅いスキームから開花させようとしているのが、日本円に連動するステーブルコイン「JPYC」を2021年から発行しているJPYC株式会社だ。JPYCの独自性や強み、目指すところなどを、同社社長の岡部典孝氏に聞いた。

技術はブロックチェーン、価値は日本円がベース

JPYC株式会社 代表取締役 岡部典孝氏

-公式サイトで、JPYCは「日本円ステーブルコイン」と説明されています。そこでまず、日本円ステーブルコインとはどのようなものかご紹介ください。

ブロックチェーンを金融に応用し、取引の相手方と直接決済できるシーンを増やすことには、さまざまな取引を現在よりずっと速く・スムーズにできるという大きな意義があります。ただ一方、いま一般的な暗号資産は価格変動が大きく、日常的な決済手段としては使いづらいという面もあります。

そこで、ブロックチェーンの仕組みを利用した決済手段のうち、何らかの形で既存の法定通貨に連動させる仕組みを導入したものが、ステーブルコインと呼ばれています。このうちJPYCは、日本円に連動している日本円ステーブルコインです。

ステーブルコインの価格安定性を実現する方法はいくつかあり、JPYCは、価値の裏付けとなる法定通貨そのものを一定量、安全に確保する「法定通貨担保型」という方法を採っています。具体的には、1JPYCを1日本円で販売した上で、未利用残高の半額以上にあたる日本円を国に預けておく(供託)一方、もし二次流通市場でJPYCが値下がりした場合は供託金を積み増し、逆に値上がりした場合は減らすことで安定を図ることにしています。

- JPYCが「暗号資産ではない」との説明もありますが、これはどういうことですか。

海外ではステーブルコインも暗号資産扱いですが、日本の法律(資金決済法)では、不特定の相手方との決済に使えて、誰とでも自由に売買できるなどの条件を満たすものが暗号資産にあたるとされています。

いっぽうJPYCは、暗号資産か、銀行振込の日本円と引き換えに「ある一定範囲での決済」に使える手段を発行しています。そのため、暗号資産にはあたらないということです。

暗号資産でないJPYCは、法律上「前払式支払手段」に分類されています。これは、現金をチャージして使うタイプのキャッシュレス決済やデパートの商品券、図書カードなどと同じカテゴリーで、運営者が半額以上を供託するというルールも共通しています。そのため多くの方になじみ深く、また安心できる方法だと考えています。

既にプリペイド型の日本円ステーブルコインが複数ある中で、2021年1月の開始から14億円を超える額を発行しているJPYCは、現在も圧倒的なトップシェアを維持しています。

-JPYCを使うと、いま何ができて、今後何ができるようになるのですか。

JPYCは現在、VISAのクレジットカードが使える店舗で利用できるプリペイドカードに交換できるので、間接的には、ほとんどあらゆる決済に使える状態になっています。また、東京のデパート「松屋銀座」での購入代金にJPYCを充てられる代理購入サービスなども実施してきました。(実証実験期間:2021年12月6日~2022年11月末)

今後、JPYCを直接決済に使える事業者を大幅に増やしたいと考えており、さる8月に行った「第三者型前払式支払手段」の登録申請が認められれば、それが法的に可能となります。そこで、このほど調達した5億円の資金などを利用して、登録後を見据えた運営・開発体制の強化を進めているところです。

なお、JPYCから日本円への直接払い戻しにはまだ対応していません。現在の法制度で払い戻しを実現するには、私たちが銀行などと同じ「預貯金取扱金融機関」になるなどの条件が課せられることから、ユーザーの利便性向上に向けて、さまざまな方法を検討中です。

 

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